戸川貞雄

ただいま委員長から御指名いただきました平塚の市長でございます。新聞、雑誌その他ですでに宣伝されておりますが、競輪廃止反対の、世論に抗して、ようやく文化人市長の悪名高からんとしている、平塚の市長でございます。 市長の立場からの反対を簡単に申し上げます。平塚市は、大体市域の八割が焦土と化しました。学校を初め公共営造物、民家、商店街、工場、ほとんど焦土に帰したといっていいような被害を受けたのでございます。 そこで、競輪と自治体との関係について私は競輪悪妻論というものをただいま唱えているわけでございます。私は元来戦災によってこうむった被害は、これはことごとく政府の責任において、国の力において復興すべきものだと、初めから考えておるわけでありますが、本家が未曽有の敗戦という歴史を喫して、そうして十分に火事で焼け出された分家を助けてやるわけにはいかない。仕方がない。分家が独自の力で世帯の立て直しをやってもらいたい。ここに幸か不幸か、大へん手癖の悪い、素性も悪い女がおるけれども、これは多くの働きのある女だから、お前の世帯の立て直しにもらったらどうかというお勧めをいただきまして、そのときには戦災都市連盟の石見さんあたりが橋渡しをして大へん苦労なすって、そうして私の市といたしましても、戦災都市連盟といたしましても、この競輪を迎えますには、堂々たる仲人があって、自由結婚や恋愛結婚をしたのではない、政府、国会が仲人として差し向けて下さった悪妻でございます。私は良妻と申し上げません。これは悪妻であります。 さらに、その悪妻の力で廃止に踏み切られた、あるいは廃止された各都市の実情は、この悪妻が今日まで――戦災をこうむってきた都市でほとんど戦災の被害から立ち直った都市は、これは多かれ少なかれ、悪妻だけのかせぎにたよってきた。この悪妻がそろそろだんだん悪性を出してきて、松戸でこんな騒ぎを起こした。どこどこでよろめいた。こんな悪評高き女房を抱えているのと、そうしてまたここらで追い出すのと、プラスマイナスを考えたならば、どっちが経済的理由で、あるいは道義的理由で得であるかということを考えて、その上で廃止、存続の二つに分れた。私はこう解釈しますから、道義的理由がきわめて薄弱であります。これは私は各自治体にとりましては表看板だ。要するに、私のところではこれ以上悪名高き悪妻の御厄介にならなくても立ち直ることができる状態になったから、ここで離縁するということです。私のところは、八割も焦土と化しておりまして、大へんかいしょうのない亭主でありますから、今日までほんとうにふがいなく、今なお立ち直っておらないのであります。従いまして今しばらくの間は、この悪妻とそっと連れ添わしてほしい。十分亭主としましては、その悪妻に注意も与えますし、世間で評判の悪いこともしないように、十分今後も気をつけてやりますから、しばらくの間は仲人さんもめんどう見て下さい。 娯楽ということは楽しむということです。娯楽は、不健全性が多ければ多いほど魅力があるのです。